米国は中国を為替操作国に認定
直近の主要国経済は、全体観として外需、設備投資の落ち込みを住宅市場、消費がカバーする傾向が続いています。
新たなイベントとして、今月5日、米国は中国を為替操作国に認定しました。
・株式市場への影響
欧米アジア各国の株式市場は大幅な下落となりました。
市場が瞬間的に今回イベントを相当程度織り込んだ場合には、発端が金融ショックではないことから、様子を見ながら好材料が出現次第、反発に向かう場面もありそうです。
サプライズがないことを前提に主要国の住宅市場の上昇基調が維持されている間、世界株価の深い調整はないと見ます。
内需の腰折れを予防するため、欧米中の低金利政策は当面続く見込みとなりました。
懸念される中国の住宅市場は、政府の金融緩和策などにより、8月の70都市住宅価格指数は上昇基調を維持し持ちこたえています。米国の住宅価格も、低金利に下支えされ上昇基調を維持しています。低金利政策を受けこの傾向は続きそうです。
主要国/地域での金融緩和の深さ、長さ、質がどの程度になるかは、物価に加え、今月、来月発表される各国・地域の与信や消費関連指標がいつもより注視されるのではないでしょうか。
・世界経済への長期的影響
今回の米国による中国の為替操作国認定は、中国当局による通貨管理や資本規制を脆弱化させるプレッシャーとなり、国内的には経済制裁の正当化を後押しします。
中国は今回の認定がなければ、通貨の先安感を強め資本流出の激化要因となる一方通行での人民元安誘導を回避するため、1米ドル7人民元を突破した後は対米ドルで適度に上下変動させながら人民元安政策を続けたと考えます。
当局サイドとしては、国外への資本逃避を管理可能で、貿易収支にはプラスとなる水準での人民元安が理想で何もなければ外需の下支え役が期待されました。
今回の米国決定は、教科書的には国際金融のトリレンマ(一国が対外的な通貨政策を取る時に、①為替相場の安定(もしくはコントロール)、②金融政策の独立性、③自由な資本移動、の3つのうち、2つしか達成できない)の①をついてきています。
中国は米国と同様に金融緩和による景気下支えが必要な局面にありますので、中国としては②をあきらめることは問題なく、米国金融政策に自国スタンスを連動させることで①を保ち、当面はこの難題を切り抜けることはできそうです。
そうであっても、米国の狙いは、元安阻止による自国産業保護と中国輸出産業への打撃というよりは、党、軍、国有企業のトライアングルによる国家資本主義の解体であり、その突破口になりうる資本規制の撤廃(トリレンマの③)が遠い目標にあることは十分に考えられ、一層の関税率引き上げなど断続的に圧力強化が進むことは想定されます。
そうすると、中国サイドは小手先の金融政策の変更だけでは対応できなくなります。
米国債の売却による対抗は短期的には有効かもしれません。一方、米国債購入と表裏一体の関係にある中国の経常収支の黒字縮小、赤字化を志向する米国現政権の措置が長期的に続けば、売却できる米国債は枯渇し、限界は訪れます。
財政への制約が強まる中、中国は輸出仕向け地の傾斜、すなわち欧州、ロシア・新興国との連携を通じた地政学的な対応を強めていくと考えられます。
結論として、世界ブロック経済化への志向は幾分であれ強。長期的に見た国際金融市場は、各国・地域ファンダメンタルズの漸進的な変化を反映する形で、各国間、アセット間での跛行色を強めそうです。